硫化物系固体電解質をナノスケールでX線CT撮像 極小Φ0.5mmの超高品質試験片切り出し

東京工業大学 工学院 機械系 平井・笹部研究室
助教 博士(工学) 兒玉 学先生


東京工業大学 平井・笹部研究室様にて独自に進められている、全固体電池の材料開発の事例です。

ナノスケールレベルのX線CT撮像に求められる、極小Φ0.5㎜サイズの超精密打抜きの実現を目指し、ご相談をいただきました。

この度の事例では、同研究室助教の兒玉学先生にインタビューさせていただいた内容をお伝えいたします。


この事例のポイント

  • お客様のご相談:グローブボックス内で、亀裂なく品質の安定したサンプルを加工したい
  • 技術上の課題:バインダーを含まない非常に脆い材料を、極小Φ0.5㎜サイズに高品質に打抜く
  • 野上技研の提案:実際の作業環境での加工→撮像を繰り返し、ベストな加工条件を検証
  • 採用結果:材料本来の状態で良好なCT像を得て、より高い解像度で部材分布の検討が可能に

→ 良質なサンプルが安定して得られ、実験のスループットも向上!

お客様の課題

  • サンプルの品質不足で、観測結果にアーチファクト(偽像)が発生→ 正し観察できない
  • 不安定なサンプル形状により、グローブボックス内でのハンドリングが更に困難に

― 当社にご相談をいただく前のご課題や、お困りごとは何でしたか?

兒玉先生弊研究室では、実験室規模CT装置ならびに大規模放射光CT装置を用いて、全固体電池のX線CT撮像を行っております。

全固体電池をナノスケール分解能でX線CT撮像するには、十分にX線が透過可能な、直径1mm以下の微小サイズのサンプルが求められます。

以前は、全固体電池シートをピンセット等で割って微小サイズの破片を作成し、それを用いてCT撮像を行っておりました。
しかしこの方法では、サンプルの品質面での問題が生じ、本来の電池構造を撮像できているのかが不明でした。また、CT像の品質も、撮像するごとに変化しておりました。

1.サンプルの作成時に、内部に亀裂が発生

品質不足のサンプルをCT撮像した結果、電池内に確認された亀裂が、本来、電池内に存在した物なのか、それとも粉砕の再に発生した物なのか、判別がつきませんでした。

2.サンプルサイズの不均一

撮像するごとにサンプルサイズが異なってしまい、CT像のクオリティーが安定しませんでした。これに伴い、1回の撮影に十時間以上を要するCT撮影の再撮影が必要であったり、仕様違いの電池のCT像の比較が困難となっておりました。クを取り扱う細かい作業は、経験を積んだ特定の作業者でなければ作業できないのが課題でした。

3.サンプルの形状が安定しない

全固体電池は大気中の水分で劣化しますので密閉治具に入れる必要があります。
直径1mm以下の微小サンプルをグローブボックスの分厚い手袋越しに密閉治具に装填するのはなかなかに難しい作業なのですが、ハンドパンチ導入以前はサンプルの形状が安定しないことにより、撮像治具内への設置のためのハンドリングも毎度試行錯誤する必要がありました。

野上技研のご提案

  • 極小の打抜きサイズΦ0.5㎜のハンドパンチをカスタムメイド
  • 極めて脆い難加工材に対し、加工時のダメージを最小に抑える刃先形状やクリアランス値を導出
  • 実際の作業環境下で加工したサンプルをSEM観察し、最良の加工品質が得られる条件を検証(技術者派遣によるオンサイト加工試験サービス)

採用結果

  • 高品質なサンプルのおかげで、アーチファクト(偽像)がほとんど発生せず
  • 良好なCT像が得られ、以前よりも高い解像度で、3次元部材分布の検討が可能に

― 野上技研製の治具をご採用いただいた結果はいかがでしたか?

兒玉先生まず品質面では、直径0.5mmや1mmの微小サイズサンプルでありながら、加工に伴う亀裂を一切発生させること無く、同一形状の安定したサンプルを作成することができるようになりました。

兒玉先生高品質の極小サンプルで撮像することにより、本来の電池構造のCT像を、同一の撮像品質で得られるようになり、作成仕様の違いによる電池構造の比較などができるようになりました。

全体像(透明黄色部:固体電解質Li5.35Ca0.1PS4.5Cl1.55 赤色部:正極活物質LiCoO2)
「極めて明瞭なCT像、アーチファクト(偽像)がほとんど発生せず 」(兒玉先生)
全体像から直方体領域を抽出
「高解像度で3次元部材分布を検討可能な良好なCT像を取得」(同上)

ご検討の過程を振り返って

― ご検討や効果検証の過程で、何かお感じになられたこと、ご印象に残っていることはありますか?

兒玉先生野上技研様には、単に治具を作成いただくのではなく、共同研究のごとく、我々が求めた精度までハンドパンチの最適化を行っていただけました。その点が印象的です。

ハンドパンチの仕様選定(刃先形状やクリアランス設定など)の段階では、弊学まで多くの試用機と共に技術者の方にお越しいただきました。

その上で、グローブボックス内で実サンプル(シート状硫化物系全固体電池)を用いて加工テストを行い、弊研究室保有の光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡でサンプル形状の確認を行いまして、最適なハンドパンチ仕様の選定を実施しました。

加工機一つにここまで熱心に対応いただける企業様は非常に珍しく、野上技研様の加工に対する熱意が伝わりました。

― 今後、野上技研に期待したいことはありますか?

兒玉先生現時点でも野上技研様の加工機では全固体電池をΦ0.5mmに正確に加工できるなど、素晴らしい技術をお持ちかと思います。
そのお持ちの技術を、X線CT以外の計測や評価用に展開いただきまして、世界の電池開発に貢献いただけますと幸いです。

― この度はご多用の中、大変ありがとうございました。

担当者のコメント

本当に技術者冥利に尽きることです

今回、技術課題として困難だったのは、打抜き対象である固体電解質の脆さに加え、Φ0.5㎜という微小な打抜き径でした。
また、実際の加工の作業はグローブボックス内です。
これら条件でご要求品質をクリアするのはもちろん、グローブをした状態で、どなたでも安定した品質のサンプルを製作できることも重要でした。サンプル加工の現場にお伺いしての加工テスト~検証が叶ったことが、良い結果に結びつけられた大きな要因だったと思います。

今のところ(2021年4月現在)、これほどのナノスケールで、ここまで精彩に全固体電池材料を観察できている事例は、兒玉先生が所属される研究室をおいて他にない様です。現在も、更にレベルアップした次の難課題の解決に向け、ご協働を続けさせていただいております。
次世代電池の最有力と目される全固体電池、その基礎研究の先端を行く研究に一部でも貢献できることは、本当に技術者冥利に尽きることです。

当社には正極、負極、セパレータ(固体電解質)、正極・負極の集電箔が一体になったフルセルの状態や、充放電後の脆い状態の全固体電池材料を精密に、短絡させず打抜きたい、といったご相談も多数いただいております。
加工困難な全固体電池材料の打抜き、切断でお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。
野上技研 開発技術チーム 川村